らくらく化学実験_論文
 電池 二酸化チタン 光合成 半導体 ホール 天然色素

天然色素どうなってんねん 色素増感太陽電池


 天然の有機色素を用い、安価、製造工程が容易、しかも環境負荷が小さいといった新しいタイプの電池が注目されている。エネルギーや環境について学習するための良い教材として、新課程の一部教科書でもその発電の原理が紹介されるまでになっている。特に、花や果実等の天然成分を用いることで、電池セルのカラー化が可能であり、産業界においてもその用途について様々な分野への応用が期待されているところである。
 このところ、材料である導電性ガラスやナノサイズの二酸化チタンもだいぶ入手し易くなり、生徒実験のレパートリーに加えられる環境も整いつつある。また、関連事項として、光触媒効果や素材としての導電性ガラス、天然の植物色素など、学習の幅を広げる教材であることもわかってきた。そこで色素増感電池の作成を通じ、教材化における実践上の工夫や課題等を報告したい。

微弱ながら確かに電流が流れる

着色透明軽量の電池セル

「手 順」

WEB非公開

チタニウムの薄層:ガラスを並べて量産可能

450℃程度で焼き付ける

色素サンプル:様々な天然染料で試す

色素液に浸す

電池セルは薄くて軽い

小さいセルなら連結すると良い


「動 画」
チタニウムをガラスに塗りつける


ろうそくのススで陽極に



動 画:モータのプロペラが回転する様子:OHP光線でのトライ









「実践上の工夫点」
 50mm角のセルを用いた場合の太陽光下における起電力-電流の最高値は0.4V-10mA程度であった。結果はサンプルごとに大きくばらつきがあり、電池としての安定性は、やはり極板の大きさ、焼き付け状況、色素の濃度に大きく依存するようだ。実践上の注意点や工夫、改善点等を次に述べる。

(1)  色素を十分に吸着させるために、アルコール抽出液により、浸しと乾燥を複数回繰り返すと良い。また、色素液を暖めると定着が良いことが分かった。単に色素の抽出速度が高まったからとも考えられるが、作業時間を短縮させることが可能。

(2)  どの色素が有効か、花や果実などの様々なサンプルデータを蓄積していくと良い。生徒の興味関心を高める要素でもあり、データは、色素ごとの大まかな起電力の格付けリストでも十分活用価値がある。 (最高値を記録したハイビスカス色素を◎印として、○△×のようにするのも良い)なお、その際は、小さめのガラス電極を使う方が経済的である。

(3)  電解質のヨウ素液が乾燥しないように、ガラスセルの貼り合わせ部をエポキシ系樹脂で封じると長期間の使用が可能となる。しかし、全く封処理を行わなくても、2週間の使用が可能のケースもあり、授業での使用には十分耐えるものである。

(4)  酸性度による起電力に大きな差のない色素があり、同色素で色を変えたカラーセルの作成が可能である。また、金属錯体を作り呈色する場合も同様であった。(アントシアン系色素:ムラサキキャベツの色素など)

(5)  陽極(炭素)は、炭素を落とせば二酸化チタン焼き付け用に転用も可能だが、焼き付を繰り返すと抵抗値が上がってしまうため不可。また、二酸化チタンへの色素の再吸着は可能だが、色素の種類を変えると起電力が低下するようだ。

(6)  小さなガラスの場合のセル電流は微弱なので、電子部品の作動には、複数のセルを直列につなぐか、高性能の電子部品を使うかする。

(7)  天候の関係で太陽光が不十分な場合はOHPで代用すると良い。拡大表示できるのでデモンストレーションにも好都合である。

クチナシ色素による黄色セル:起電力は赤〜紫系の濃い色と比べてもさほど差はない。

同じハイビスカス色素でも定着時の酸性度を変えてやると、これほどに色に違いが出る。

「色素増感の理論」
 色素増感型太陽電池は、酸化チタンと色素、電解質溶液を組み合わせたもので、1991年にスイスのGratzelらによって開発された。Si太陽電池に比べ、材料や製造コストの面で有利であることから、次世代型太陽電池として期待されているものである。
 
理論としては、有機色素が太陽光を吸収して励起状態になり、電子を酸化半導体である二酸化チタン(TiO2)に渡す。電子は、炭素電極上でヨウ素に渡り、イオンIが生成、ヨウ素は有機色素に電子を戻す役割を果たすことになるが、電子が飛び出すことにより生じたホールhが電解質側に移動するという考え方も成り立つ。つまり、全体としては、光エネルギーを得ただけで物質には変化がなく電子が一巡する回路が成立するのである。
 
半導体である二酸化チタンを光励起するにはバンドギャップ以上のエネルギー(主に紫外領域)を持つ光を吸収しなければならないが、広い吸収波長帯を持つ有機色素を吸着させることによって、半導体の光吸収領域を長波長側に広げることが可能になる。これが色素増感と呼ばれる作用である。特に、色素として天然の植物成分を用いることもできるので、これらのエネルギーサイクルを「疑似光合成」「エコ電池」に見立てる向きもある。

実践上の工夫点
 50mm角のセルを用いた場合の太陽光下における起電力-電流の最高値は0.4V-10mA程度であった。結果はサンプルごとに大きくばらつきがあり、電池としての安定性は、やはり極板の大きさ、焼き付け状況、色素の濃度に大きく依存するようだ。実践上の注意点や工夫、改善点等を次に述べる。

(1)  色素を十分に吸着させるために、アルコール抽出液により、浸しと乾燥を複数回繰り返すと良い。また、色素液を暖めると定着が良いことが分かった。単に色素の抽出速度が高まったからとも考えられるが、作業時間を短縮させることが可能。

(2)  どの色素が有効か、花や果実などの様々なサンプルデータを蓄積していくと良い。生徒の興味関心を高める要素でもあり、データは、色素ごとの大まかな起電力の格付けリストでも十分活用価値がある。 (最高値を記録したハイビスカス色素を◎印として、○△×のようにするのも良い)なお、その際は、小さめのガラス電極を使う方が経済的である。

(3)  電解質のヨウ素液が乾燥しないように、ガラスセルの貼り合わせ部をエポキシ系樹脂で封じると長期間の使用が可能となる。しかし、全く封処理を行わなくても、2週間の使用が可能のケースもあり、授業での使用には十分耐えるものである。

(4)  酸性度による起電力に大きな差のない色素があり、同色素で色を変えたセルの作成が可能である。また、金属錯体を作り呈色する場合も同様であった。(アントシアン系色素:ムラサキキャベツの色素など)

(5)  陽極(炭素)は、炭素を落とせば二酸化チタン焼き付け用に転用も可能だが、焼き付を繰り返すと抵抗値が上がってしまうため不可。また、二酸化チタンへの色素の再吸着は可能だが、色素の種類を変えると起電力が低下するようだ。

(6)  小さなガラスの場合のセル電流は微弱なので、電子部品の作動には、複数のセルを直列につなぐか、高性能の電子部品を使うかする。

(7)  天候の関係で太陽光が不十分な場合はOHPで代用すると良い。拡大表示できるのでデモンストレーションにも好都合である。

「教材化における発展項目」
 実践を通じ、電池としては変換効率や安定性の面でまだ多くの課題を持つことがわかったが、サンプルや作業の具合で結果にばらつきが生じることは、かえって学習テーマとしては都合が良いという考え方もある。「次こそはよい結果を」「素材を何にしたら良いか」など、生徒の学習の動機付けにもなる。
 
また、次に例示するような関連テーマで学習を発展させることが可能であり、幅のある教材として多くの魅力を持つものであることがわかる。

(1)  電池とエネルギー:電子の受け渡し、イオン反応、酸化還元等の基本学習。

(2)  新素材:二酸化チタンの半導体としての性質、導電性素材についての調べ学習。使用されている身近な物(化粧品、食品、塗装材料)を探すなど。

(3)  エネルギーと変換効率:他のクリーンエネルギーとの比較や光の波長とエネルギーの関係など。

(4)  光触媒効果:最近にわかに注目されている光触媒の原理(本田−藤島効果)と関連の実験(消臭、脱色など)

(5)  天然色素と酸性度による色変化:花の成分、果物や医薬品等様々なサンプルの収集を行うと楽しみが増す。

(6)  類似有機色素増感電池の紹介:PET樹脂への電析による電極形成:高温焼き付け不要で曲げることができるカラー電極への応用。「エコ電池」の未来についての学習。

(7)  光を透過するカラー電池セルのデザインを考える:チタニウムの薄層は軟らかく、文字を書き込むことが容易。陽極の炭素側も同様で、透過光を利用した掲示板にもなる。しかも、起電力はほとんど低下しない。

黒鉛の方はさほど面積にこだわらなくとも問題ない

まだまだ改良の余地はあるものの楽しみのある教材である

「おわりに」
 これまで太陽電池の主な材料は重く無機暗色のシリコンだったが、リサイクルのききにくい廃棄物となることや高コストなどが問題となっていた。ところが、ここに紹介する色素増感電池は、太陽電池の可能性に新たな道を開きつつある。安定性や大型化などの課題はあるものの、透明素材を活用したデイスプレイ、PETへの応用、カラフルな色素を塗料にするなどユニークなアイディアが次々と生まれており、産業界も、その可能性に注目しているようだ。
 
素材、手順、評価等、学習教材としてはまだまだ改善の余地があり、様々な工夫が可能である。また、何よりも花に含まれる天然色素が電池になるというアイディアは、今後の学校における環境・エネルギー教育の良い教材となり得るもので、ぜひ実践を勧めたいテーマのひとつである。
「参 考」
・「色素増感型太陽電池を作る」瀧口公夫 化学と教育 2003年51巻4号
・「色素増感太陽電池ホームページ」
http://kuroppe.tagen.tohoku.ac.jp/~dsc/cell.html
・「レインボーセルプロジェクト」
http://apchem.gifu-u.ac.jp/~pcl/special/frame1.htm
トップページへ戻る
編集:山田暢司