○科学者ゆえの愛国心:iPS細胞の山中伸弥さん

 京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が、テレビで自分の生い立ちを先進科学高校で講演しているドキュメンタリーを観た。山中伸弥さんといえば、今や世界の科学界で最も注目される医学者である。医療研究分野で論文引用回数ダントツ、昨年暮れのノーベル賞発表直前も、賞選考委員会本部のあるスウェーデン現地の新聞では、受賞最有力候補に挙げられていた、我が国期待の若手研究者なのである。あの精悍な顔立ち、やせ形で神経質を思わせる風貌から、さぞや世間離れした天才スーパー研究者なのだろうと思っていた。あの若さで、しかも世界で最も競争の激しい医学分野でのノーベル賞が確実と言われているのであるから、それはそれは恵まれた環境に育った超エリートなのだろうと・・・。

 しかし、山中さんのこれまでの軌跡は、必ずしも順調ではなかったようだ。山中さんは、その容姿からはちょっと想像しづらいのだが、中学・高校は何と柔道部に所属し、汗臭くて地味な、根暗
()で硬派な青春を送っていたらしい。医学部に進学したが、手先があまりに不器用なため、普通なら20分でできる医療行為に2時間もかかってしまうほどだったという。あまり作業がのろくて他人の仕事のじゃまになるためについたあだ名が何と「じゃまなか(山中)」だったというのだ。かつての指導教官のインタビューでも「あの山中君ですよね?いやーテレビで本当のことを言ってもいいんですかねえ、実に手術が下手で不器用でしたねー。」 
 不器用な自分に嫌気がさし、それで医者として臨床現場で働くことを諦め、研究者を志すようになったのだそうだ。薬理学研究を開始し、博士研究員として留学後、間もなく
iPS細胞研究を始めるが、帰国後の研究環境の酷さに絶望し、ノイローゼ・うつ病状態になってしまう。またもや能力に限界を感じた山中さんは、基礎研究を諦め、再び臨床医に戻ろうとする。ところが、たまたま公募で見つけた奈良先端科学技術大学院大学で採用されたことが転機となり、基礎研究を再開したのである。その研究の成果が現在の業績に結びつき、世界レベルの賞を次々受賞し、今やあこがれの「時の人」になったという次第。
 
 山中さんのこの分野での功績が全世界の科学者に与えたインパクトは絶大で、今後の我が国の先端科学分野や産業界、経済に与える影響は多大である。ちなみに、昨年暮れノーベル化学賞を受賞対象となった鈴木・根岸カップリング反応の経済価値は約○兆円とも言われる。山中さんレベルなら今の給料の○○倍払ってでも来てくださいと考えるアメリカの企業や大学は少なくないだろう。ところが、山中さんは、国内に残り、日本の研究者の育成に力を注いでいくのだという。日本人が開発した技術なのだから、日本のために頑張りたいという実直で清々しい氏の言葉から、研究者としての愛国心を感じ取ることができた。


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